四方の山と星を見つめながら眠る。 |
父は陽気に冗談を交わしながら、リーダーシップもあるため、いわゆる〈人たらし〉だったのかもしれない。しかしそれは欺瞞に映らず、父の魅力に見えた。(*父は欠点も多い人だが、ここでは敢えて語らず、別の日に書くことにしよう)。
こういう環境に育ったせいか、私は父方も母方の親戚も愛している。〈親戚〉という言葉が甘美に響くのだ。おそらく私のような人間は、非常に珍しいに違いない。
私は未婚だが、もし伴侶ができたら、相手の家族を愛したいと願う。相手の家族の一員になりたいと思うほどだ。これは私が育った環境がそうだったからだろう。しかし平成の今の時代には、そぐわないかもしれない。単に夢を見ているだけなのかもしれない。
70年代の夏の日、私の家族と母方の祖父母で、祖父の一家の墓に参った。豊後高田市の長岩屋という、国東半島の中心部である。山に囲まれた地域でありながら、長岩屋川という小さな川が流れている。その川に落ちてきたように大きな岩がそこかしこにありながら、岩には仏像が掘られていた。人気のない淋しい地域でありながら、荘厳であった。祖父の一家の墓はこの地域を通った、窪地にある。国東の四方の山と星を見つめながら、祖父の一家は眠っているのだと、子どもながらに思ったものだ。