平凡な日々のニュースのような出来事。 |
私は入院してから一度も自宅へ帰っていない。愛用しているものはほとんど手元になく、売店や人からいただいたもので暮らしているが、特に不満はない。病院に入院している人というと同世代の人間は極めて少なく、圧倒的に老人が多い。しかしながら、とても楽しい毎日を送っている。不思議なものだな、と思う。いったい自分の好きなものはどのような存在だったのかな、などとも思ったりもするが、新しい自分も発見できた喜びも味わえている。
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私のとなりのベッドで暮らす女の子は16歳だ。私と同じように左足を負傷している。彼女の場合はバイクとぶつかったのだが、私よりはるかに重傷で骨や皮膚を移植する手術を3回も行っている。向かいのベットの女性は、大正生まれの83歳。実におしゃれで若いご婦人である。彼女の場合はお墓ですべってしまい、大腿骨を折ってしまったようだ。
実は今日、その83歳の女性が、救急治療室に入ってしまった。膝下が腫れていたので水がたまってしまったのだろうと高をくくっていたところ、レントゲンと血液検査でエコノミー症候群だということがわかった。エコノミー症候群とは、血栓(血の塊)ができてしまう病気である。彼女の場合は肺の近くに血栓が集まっていた状態にあったので、もう少し発見が遅れていれば、命の危険にさらされていたかもしれない。
平凡な日々のなかで、ニュースのような出来事が起こる。病院は、実におもしろい場所である。