シロウトは、怖い。 |
イシンバエワやゲイが、緊張していないわけがない。もし緊張していなければ、イシンバエワがあの場で顔を隠すこともないだろう。寝転んでふてぶてしい、と言っている人もいたが、私はむしろ逆だと感じた。極度に緊張しているからこそ他人の競技を見ないようにし、自分の表情を悟られないようにしたのだ。本当にふてぶてしいようであればゆっくりと他人の競技を観戦し、笑顔のひとつも浮かべていたに違いない。ゲイだってそうだ。余裕たっぷりであれば、いつまでも水なんか飲んでいたりしないだろう。しかもとなりのレーンは、世界記録を出した男。緊張しないわけがない。
日本選手はゲイのような“世界最速の男と並ぶ”状況にもなく敗退してしまったわけだが、世界に挑むとなればゲイと同じ状況に追い込まれるわけである。思えば立ち回りの上手さというのは、どの世界でも求められるものだ。ここをどう切り抜けるかで、手腕を問われてしまうことも多い。イシンバエワやゲイを観て、思わず自分の仕事を振り返ってしまった…。
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3年前だっただろうか。あるコミュニティサイトを、一年間企画・制作・運営させていただいたことがあった。久々にそれを見ると、内容がぐんとつまらなくなっていた。案の定、掲示板も閑散としている様子。私がやらなくなって昨年くらいまでは確かに元気だったにも関わらず、今はその影もない。
私はシロウトと呼ばれる人が一番怖い。よく「シロウトは黙っておけ」という人がいるが、その一言で“了見の狭い人だな”と感じてしまう。シロウトは、はるかに敏感であることをわかっていない。専門家はこちらが納得できることを言うが、シロウトはこちらが気づきもしない天外なことを言い出す。本質をつかむことができるシロウトは、どこにでもいるものだ。それにどの世界も、専門家よりシロウトのほうが圧倒的に多い(笑)。シロウトを納得させなければ、世の中の諸事は成り立たないのだ。
亡くなった阿久悠さんも素晴らしい才能を持ちながら、平成の趨勢には勝てなかった。もちろんシロウトは敏感だから、触れることができれば彼の作品の質の高さは感じることができるだろう。しかしメディアや流通のシステムなどは時代によって明らかに違ってくる。シロウトは残念ながら、それに乗っかるしかない。だから日本の音楽の状況は、狭いエリアのなかで流転しているのだと思う。ただシロウトは賢いので、ひとたび素晴らしいものを知り、味わえるようになれば、あっという間に状況は変化する。シロウトの勢いは、誰もとめることができないだろう。
話をもとに戻そう。ユーザーは、サイトの制作や運営についてはわからない方も多い。けれどもそれはユーザーには一切関係がない。どんな辛い状況にあっても、そこは黙して見せないのがプロの仕事だ。そこを見せてしまっては、お里が知れる。それでいて見せるところは、徹底的におもしろく内容のいいものを生み出さなくてはならない。シロウトは鋭いから、成果物も裏事情もしっかりと読めるもの。軽んじていれば、どのような結末になるか自ずとわかるだろう。シロウトは、本当に怖い。