浮かび上がる基本。 |
最近は〈マルチ〉というのが、当たり前になってきているのだろうか。最近は食事も、デザインも、音楽制作もなんでも手軽にできてしまうから、どうしてもそういう傾向にあるのかもしれない。思えば専門家をほとんど見かけなくなった。それと同時に'90年代以降、強烈な創造物と出会っていない。どうしても最近のものが希薄に感じてしまうので、飽き足らない私は〈衝撃〉を探しに未知の70年代に向かってしまう。これはひとつの例だが、日本人の多くがどこかでそれを渇望しているからこそ、70年代の歌謡曲を愛しく思っているのかもしれない。作曲家・作詞家・歌手…各々が専任でいかんなく力を発揮していた、あの時代の音楽を。
類は友を呼ぶではないが、私の周りは〈専任〉タイプが多い。当初はそれを専任にしていて食べていけるの?と私のほうが思っていたのだが(笑)、むしろそれは杞憂でいたって彼らは順調だったりする。専任だからこそ仕事になるし、よい仕事もできる。今は百貨店が振るわないのも、それを象徴しているような気もする。時代はさらに〈専任〉の方向へ向かっていくような気がしてならない。
古田さんには監督専任でぜひともやっていただきたいのだが、どうやらその気はないらしい。しかし数年後には、また監督として戻ってきてくれるだろう。その日を首を長くして待っていたい。
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加藤雄一郎さんは、書家とコラボレートするイベントに参加するらしい。大変おもしろそうだ。私は高校時代に書家になろうかな、と考えていたことがあった。高校時代は草書で文字を書くのが楽しくて、現代国語のテストの際に草書で解答を書いてしまった(アホ…)。答案に“キレイに書いていますが、文字が読めません”と先生から書かれたことがあったなあ。私は絵と書の区別がほとんどなく、単に空間の感覚を使うのが好きなのだと思う。白い大きな紙を見るだけで、私はわくわくして仕方がない。
好きな書家というと、榊莫山さん。彼は前衛的と言われるが、そう思ったことなど一度もない。むしろこれほどまでに基本に忠実な方もいないのではないかと思う。私が言うのもなんだが、基本をおそろしいほどモノにしているからこそ、その端々に基本が浮かび上がってくるのだろう。彼の文字は観ていて非常に心地よく、ずっと眺めていても飽きることがない。魅力あふれる文字だ。