『ぐるりのこと。』@渋谷シネマライズ |
中原くんとはもう数年、会っていない気がする。仕事をいっしょにしたときに、なぜか家族の話になった。家族なのでわがまま言っても甘えてもいいという話になり、都合のいいことばかり言っているなと感じた反面(笑)、いいご家族なんだなあと思った。
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渋谷に立ち寄る用があり、その時間を使って映画『ぐるりのこと。』を観た。土日であれば人が多すぎて、観るのが困難だろうと踏んでいたからだ。冒頭のリリー・フランキーさんと木村多恵さんの夫婦の掛け合いには、笑ってしまった。口紅とバナナのたわいのない話がいい。
リリーさんの役柄は、うだつのあがらない法廷画家の夫。ケンカをしつつ二人で殴り合いながらも、うつ病になった妻を受け入れようとする。
私は、夫婦の間のツライ空気がもっと続くのかと思っていた。想像以上に丸く収まるので、逆に驚いてしまったのだ。これは私が70年代ドラマの観すぎのせいで、そう感じてしまうのか?大映ドラマの70年代ものだとワンクールが半年もあり、その間立て続けにイヤなことが続くのだ。それでも家族や夫婦は離れない。ああいうものを観ていると、世の中の耐性も強くなるのかもしれないと思うくらいだ。
私にとっては『ぐるりのこと。』の夫婦でさえ、ごくふつうの夫婦に見えた。決して思いやりの深い夫婦ではないと。ましてやうつ病であれば、相手を受け入れられるものだと思っていた。ただ現代は、もっとクールで他人を見放すものなのかもしれない。
人を信用したい、人を愛したいと切望する人は多いと思う。私だってそうだ。長く人と関係を築いていたい。見放すというのは、言動を起こしたほうに非があるのか、去っていくほうに耐性が足りないのか私にはわからない。ただ、関係を簡単にリセットしてしまう哀しさ。表層だけで口当たりのいい関係を選んでしまう空しさ。いつしか日本は、そういう空虚な気持ちをもった人ばかりが溢れるようになってしまった。
余談だが、最後のシーンに登場する木村多恵さんが描いた原色の花々の絵がよかった。不思議なものであの日本画に、妙に元気をいただいたのだ。あれはうつ病患者には描けない。並んでいるだけで、活力が出てくるからだ。色の力は本当に大きい。