大きいものには勝てない? |
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山田洋次監督の『故郷』(1972年)を観る。広島県の倉橋島が舞台のせいか、広島弁が行き交う。宇品ー広島行きの電車も登場し、懐かしいなと感じる。山田洋次監督で渥美清さん、倍賞千恵子さん、笠 智衆さんが出演するということもあって、なんだかトラさんの続編ようにも思えてしまうが、内容は似て非なるものだった。
小さい頃、倍賞千恵子さんはとても地味な女優さんだな、と思っていた。しかし今観ると知的な美しさと芯の強さを漂わせて、非常に魅力的だなと感じる。凛としたごく普通の日本人女性を演じると、彼女は輝く。大好きな女優さんのひとりだ。
井川比佐志さん演じる主人公は、島の石船の船長をやっている。漁船で食べていくことが苦しくなった彼は、やむなく会社勤めをするようこころを決める。その主人公に対し、渥美清さんは「朝から晩まで一生懸命働いて何一つ悪いこともしていないのに、なぜ先祖代々暮らして来た美しい町を出て行かなきゃならないんだろう」とつぶやく。素朴なこういったことばが、こころを打つ。
このような話は、平成の日本を実に象徴していると思う。漁船の油代が高くなり、ストを起こしたのはつい先日の話だ。廃業する人も増えていると聞く。
井川比佐志さんは「時代の流れや、大きいものには勝てんと言うが、時代の流れ、大きいもんとは何を指すんかいの?」「わしとおまえとで大好きな石船の仕事を、わしの好きな海で、なぜ続けてはやれんのかいの?」と言い、妻に姿を見せずひとり泣く。
こういったごく普通の人々を描いた日本映画は、やっぱりいいなあ、と感じる。私もそこそこ年齢を重ねたかな?