誇りと娯楽のためだけに。 |
#
音楽と呼ばれるものなら、私はたいがい好きだ。もちろん好きなものが少ないジャンルはある。たとえば、ヘビーメタルやトランス、中央アフリカ周辺の音楽であるリンガラ、ドミニカ共和国のメレンゲ、ここ30年のNYサルサとJ-pop。このあたりはどうしても、好きなものが見つかりにくい。
スポーツ選手は音楽好きが多いようだ。特に海外の選手はそうらしい。先日テレビでサッカー選手のロナウジーニョが「サンバが大好き」と語っていた。草薙剛さんが彼にブラジルの楽器であるバンデイロやチンバウをプレゼントしてご機嫌そうだったが、外国人選手たちは母国の音楽をとても愛している人が多い。いや、スポーツ選手に限らず、外国人は自分の国の音楽に誇りを持っているのだと思う。日本とは根本的に異なるのが、暮らしのなかに音楽があるということだ。海外は日本と異なり接待する場所がない代わりに、自宅へ招くことが多い。そこで訪問客に音楽を演奏して、もてなすわけである。客がなくとも、娯楽のひとつに演奏があるせいか、音楽が日常に溶け込んでいる。
数年前、話題になった『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』は、キューバに住むおじいさんたちの演奏を撮ったドキュメント映画だった。国外ではほとんど名も知られていない90歳前後のおじいさんたち(とはいえかつては第一線のプレーヤー)が、素晴らしい演奏をする。かっこいい。しかも大金をいただけるわけでもなく、ただ自分たちの誇りと娯楽のために演奏を続けてきたわけである。音楽はそもそもこういうものだよなあ、と感じてしまった。
これを観ると〈音楽の素晴らしさ〉と〈続けることの偉大さ〉、〈人間の情熱〉を痛感できる。ここでこうして語っていると、久々にこの映画を観たくなってしまった。