日本のローリング・ストーンズ。 |
彼の歌というと〈有楽町で逢いましょう〉を挙げる方が多いようだが、私は〈君恋し〉を挙げたいと思う。この曲は昭和36年の曲のようだが、私はリバイバルで聴いていたような気がする。私が小学校へ行く前、昼間のメロドラマのエンディングテーマ曲で使われていたように記憶している。この歌を聴きながら母が編み機で編み物をしていた覚えがあるのだ。永井さんの声は低音の深さが魅力で、子どもごころにこの声は素晴らしい!と思っていた。
〈君恋し〉のほかに〈おまえに〉も好きだった。これもドラマの劇中で覚えた気がする。たぶん70年代の赤いシリーズだろう。宇津井健さんが歌っていたのを聴いて、父がフランク永井さんの曲だということを教えてくれたのだ。父との想い出としても私には印象深い曲だ。
〈おまえに〉は、愛する人にささやくような歌詞だ。これがフランク永井さんの声にかかると、何ともいえない憂いを帯びた趣になる。彼の曲はいわゆるムード歌謡といわれるものだが、ムード歌謡というのは大人のため息を琥珀色に替えるような音楽だ。最近はムード歌謡自体がなくなってしまったが、大人たちはため息を替えるどころか、ため息さえもつく場所さえない。しかも私は子どもの頃、大人たちが歌うムード歌謡を聴いて〈大人も楽しんでいる〉と感じていたし、歌詞のなかに〈男女はこうして互いの距離を縮めるんだ〉と感じながら観ていた。残念ながらそれを感じる歌が、今の日本の音楽にはない。大人は居場所をなくし、子どもたちも大人の姿を見失っている。
フランク永井さんが亡くなり、ムード歌謡はいよいよ世の中から消えていくんだな、と感じた。淋しい世の中だ。
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先日、渋谷のparcoパート1の地下へ行くと、古本市をやっていた。購入したのは70年代の〈うたぼん〉。歌謡曲が熱かった時期の歌詞と譜面が掲載されている。これは欲しいなと思い、いろいろと物色した。今後はうたぼんを観ながらメロディや歌詞のおもしろさを、さらに追求しようと思う(私は半田健人さんか?)
70年代初頭のジュリー。ルックスはもちろん、このナチュラルなヘアスタイルも素敵!
そういえば明日は、NHKFMで沢田研二さんの12時間ラジオ〈ジュリー三昧〉がある。私は70年代好きなので、井上堯之バンド時代の沢田さんにとても興味がある。当時の井上堯之バンドがなぜいいかというと、やはりロックバンドらしいからだ。私にとって井上堯之バンドは、ある種ローリング・ストーンズのようなものである。
ローリング・ストーンズはミック・ジャガーがフロントマンだが、ギターにはキース・リチャーズがいて、ドラムにはチャーリー・ワッツがいる。バンドのメンバーそれぞれがスターで、それぞれが音楽家として独立して動いているようなところがある。しかも黒人音楽をルーツとしたロックンロールをやっているところも、ストーンズと井上堯之バンドは似ているように思う。
フロントマンであるミックは欠かせないが、ギターにキースがいたり、ドラムにチャーリー・ワッツがいなければ、ファンは納得しないだろう。私にとって当時の井上堯之バンドはそんな存在なのだ。井上堯之さんや大野克夫さんがいてこそ、〈時の過ぎゆくままに〉〈勝手にしやがれ〉〈カサブランカ・ダンディ〉なのだ。長年彼を追い続けているファンの方々と、私のような一介の歌謡曲好きとは見解が異なるかもしれない。しかしこれが私個人の楽しみ方のひとつとして、当時の映像をyoutubeで楽しんでいる。日本のローリング・ストーンズを。