『ヘブンズ・ストーリー』@K'Sシネマ |
映画は『ヘブンズ・ストーリー』を観たのだが、なにせ4回目なので内容も台詞もキャストのしぐさも、すっかり覚えてしまっている。主人公のさとがトモキの吸った煙草を加えて目を閉じている姿や、トモキに肩車をされて数秒じっとしている姿は、思春期のエロティックさもうまく表現されているなあ…などと思った。本筋とは別だがそのあたりも、ピンク映画をたくさん撮ってきた瀬々監督ならではの演出だなあと感じる。
また撮り方で好きだったのは、ハルキがカバンを盗もうとしたあと、父であるカイジマが息子を叱るシーン。自転車をカイジマに倒され、そして「警官の息子が(盗みなんて)かっこ悪い」と言ったあと、ハルキの目のアップが入る。そこがとても好きだ。息子は何もかも父親の真の姿(殺し屋)をお見通しでいながらも、言い返しもせず、目だけで訴えているかのように感じられるからだ。おそらくこのシーンに関しては、瀬々監督もそこを描きたかったのではないだろうか。
好きなシーンはカイジマの「イヴに雪を降らせておけって言ったんだよ」「嘘つけ」「俺はサンタに貸しがあるんだよ。去年、スピード違反を見逃してやったからな」ってところ。親子の温かい雰囲気に包まれながら、ちょっとユーモアのあるセリフがとてもかっこいい。またミツオが恭子の元を、しばらく離れるというシーン。指人形を観ているときの恭子さんの無邪気な目が忘れられない。病気が進行していくと、人はきっとああいう無邪気な顔になっていくのではないだろうか。
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映画についてはツイッターで何度も話をしているので、このくらいにしておきたいと思う。真の目的はトークショーだった。なにせ瀬々敬久監督、若松孝二監督、山本政志監督が揃って登壇というのだから、時間をつくってでも行きたかったのだ。
三人がステージの上に上がって来た。山本政志監督の顔はすでに赤く、酒が入っている様子。案の定「酒が入っています」と山本監督は自白した。
ステージの向かって左に若松監督、真ん中に山本政志監督、右側に瀬々敬久監督が座った。瀬々監督は「郷里の映画監督の先輩が山本政志監督で、若松監督はピンク映画の先輩です」と二人を紹介。そして「郷里と言っても山本政志監督の地元は大分でも都会、僕は田舎なんですけど」とつけくわえると、若松監督がすかさず「顔を見ると逆のように感じるけどな」と笑った。そして『ヘブンズ・ストーリー』について、素晴らしい作品だと絶賛。「これだけの映画をつくるという志がいい」とおっしゃった。同感だ。ここまで鬼気迫る作品は、ここ数年巡り会ったことがない。若松監督は「〈○○戦艦ヤマト〉や〈○○○○○の花嫁〉と全然違うでしょう?」と観客を笑わせる。
しかし作品以上に褒めたのは、私たちの観客のことだった。「映画を4時間以上立て続けに観るということがスゴイ。しかも劇場に足を運んでという行為があってのこと。なかなかできることじゃないよ」と言った。
撮影については、“わりに風景にこだわるという”山本政志監督のことばから、撮影場所選びの話になる。山本監督は町の風景の中に人間模様があるのも好きだと語った。若松監督は雪をバックに人がいるというのが、人が映えていいと言う。それと郷里が北国なので、やはりそこに原風景があるようだ。瀬々監督は、廃墟が好きだと語った。
「我々に質問がある方いらっしゃいますか?」という若松監督のことばに手を挙げると、またもや当たってしまう。山本政志監督から「ツイッター仲間です(笑)」と言われつつ、最近の日本映画の脚本についてたずねてみた。いいものが少ない気がする、と。すると若松監督が「今はみんな映画学校なんかに行っているから、いい脚本が生まれてこない。あれは学校行って書けるものではないでしょう?われわれ三人は誰も映画の学校なんか行ってやしないよ」と語る。山本政志監督と瀬々監督は「やはりこころの内にあるものを描かないからでは?」と言った。私がATGが好きで、佐々木守さんの脚本が好きだというと、若松監督は「僕も守とはよく仕事をしたけどねえ。あいつも亡くなったけど…」としみじみ語った。
その後、いくつかの質問を受けると、客席から山崎ハコさんと村上淳さんが現れた。村上淳さんは想像以上に身長が高い。映画を観ている限りでは、そういう印象がなかった。
トークショーが終わって、山崎ハコさんと瀬々監督と話す機会があった。“cinema5のプレゼント企画である、ピーポくんのストラップが素晴らしかったです!”と話していると、山本政志監督がやってくる。「こいつ学校の後輩なんですよ」「はい。上野丘高の後輩です」と言うと、瀬々監督が「上野かあ〜大分で一番いい高校だからね」と言われてしまう(でも瀬々監督の京大なんて入れませんから!)。「しかしここで4人大分県人が揃うのはすげえなあ」と山本政志監督。
そこへ村上淳さんもやってくる。「『ゲゲゲの女房』も『海炭市叙景』も『ヘブンズ・ストーリー』も出ていたので、『玄牝』にも出て欲しかった」と言うと全くツッコまれず(苦笑)、スタッフの女性が「ああ…スタンプラリーね」という。村上淳さんはただ笑っていた。
その後、山本政志監督と話をする。せっかくの機会だからサインをくださいというと「なぜ瀬々の本に、俺が(笑)?」と言われる。今日の記念なのでと言うと、サインをしてくれた。ごく私的な話になり、“なんだかおまえは親戚みたいだ”とおっしゃってくれる。とてもうれしかった。
また再び村上淳さんがやってきて「今、ATGって何本ぐらいソフトで観れるんですか?」と私にたずねた。「(VHSを含めると)半分くらいですかね?」と答えた(正しいのでしょうか?)そして『スリー☆ポイント』について話をする。山本政志監督は「『スリー☆ポイント』のムラジュンは最高だよ!」という。彼は東京編に出ているらしい。映画の話をしているうちに、ますます観たくなる。5月が待ち遠しくてたまらなくなった。
観客はほぼ私ひとりになったあと、瀬々監督から「(『ヘブンズ・ストーリー』を)4回観たのはすごいよなあ…」としみじみ言われる。20時間!20時間!と言われながら、K'Sシネマをあとにした。